ルター『聖書への序言』における「藁の書」の真相(書きかけ)

この文書は書評、アウトプットのリハビリも兼ねています。

宗教改革者にしてプロテスタントの祖の一人、マルティン・ルターの著作に『キリスト者の自由』があります。

この『キリスト者の自由』は日本語では岩波文庫版が最も流通しています。私は現行の岩波文庫版と、すでに絶版になっている旧訳の岩波文庫版、そして『世界の名著』版の三種類の訳を持っています。『世界の名著』は別に『キリスト者の自由』が読みたかったわけではなく、ルターの他の著作を目当てで買いました。ではなぜわざわざ岩波の旧訳版まで買ったのかといいますと、ルターの「藁の書」という言葉の真相を知りたかったからです。

岩波文庫版では、『キリスト者の自由』のほかに、『聖書への序言』という文書が収録されています。ルターは聖書をドイツ語に翻訳した人物としても知られているように、この岩波版に入っている『聖書への序言』は、彼が訳した聖書全体と、各文書への序言の一部抜粋なのです。

さて、「藁の書」という有名な言葉があります。一体ルターはなぜ藁の書などと強い表現を用いてまでヤコブ書を貶めるようなことを書いたのか
訳注によると、旧版には収録されていたのですが、今回の新訳では割愛されてしまったのです。読者としては気になるところがカットされたのはなんとも不親切だと言わざるを得ません。価格や分量の関係でしょうか。
ともかく、私は旧版のほうもAmazonで注文して手に入れるに至ったのでした。(思えば買わずとも図書館で『ルター著作集』を探して読めばよかったです。)
こうして手に入れた旧訳の初版はなんと昭和8年、漢字は旧字体、ふりがなは歴史的仮名遣い、各ページの上部に書かれているタイトルは右から左へと書かれていて、時代を感じさせるものです。

では、肝心の『聖ヤコブ及び聖ユダの書翰への序言』にはなんと書かれていたのでしょうか。意外にもルターは、ヤコブ書の価値を全く否定しているわけではありませんでした。

「聖ヤコブの此の書翰は、初代の人々の廃棄したところのものであるが、私はこれを称揚しそして矢張り優れたものだと思ふ。」

ヤコブ書を初代の人々が捨てようとした理由は、キリスト教史に精通しているわけではない私にはわかりませんが、とりあえずルターの言葉に従うなら、ヤコブ書はすでにキリスト教初期の時代からその価値や真筆性が疑われていたことは確かだということなのでしょうか。

ではそれにもかかわらずなぜ「藁の書」と蔑んだのでしょうか。ルターはこの序言でヤコブ書はヤコブの名が冠せされているにもかかわらず、「如何なる使徒の書でもないと私は考へる。」とも述べています。

引用すると長くなりますので要約しますと、第一に、ヤコブはパウロの書簡とは反対に、義を行いに帰していて、ルター自身の信仰義認論とも相容れないから、第二に、キリストの苦難や復活にはなんら言及していないから(「併し苟もキリストを説教するものは、ユダ、アンテス、ピラト、ヘロデがなしたにもせよ、それは使徒的である」※)、第三に、ヤコブはペテロよりも以前にエルサレムでヘロデに殺されているにもかかわらず、それよりも後に書かれたペテロへの手紙一や、ガラテヤ書に言及しているからです。(つまりルターはヤコブ書が偽書ではないかと疑っているのです。)

ただし、第三の理由に関しては、訳注によれば、ルターは、ヤコブ書の著者とされている、「主の兄弟ヤコブ」と、「ヨハネの兄弟ヤコブ」を混同してしまっているそうです。しかしそうだとしても興味深いのは、一見正統主義者のようなルターでさえ、後世の自由主義神学で活発になって、原理主義的な教派が槍玉に挙げるような、歴史的、批判的な聖書の読解をすでに行っていたということです。もっとも、それは当然といえば当然のことかもしれません。教会や教皇、教義などの外的な権威に盲従して聖書を読むならば、プロテスタントとしての意義がなくなってしまうからです。

結局、ルターにとってヤコブ書は、それ自体としては優れた点はあるものの、聖書全体として見れば、福音書やパウロの書簡よりは著しく内容が劣っていると言わざるを得なかったといったところでしょう。ルターといえども、聖書の一字一句が等しく霊感を受けているとは考えていなかったのです。

※ユダ、ピラト、ヘロデはいずれも聖書の中で悪人とされている人物です。『キリスト者の自由』のルターの思想からすると、たとえとはいえ、そもそもそういう人がキリストを説教などできそうになく、解釈に困る部分です。アンテスというのは何者かわかりませんでした。牧師にでも聞いてみることにします。

6月22日追記
牧師に聞いてみたところ、アンテスはヘロデ・アンティパスのことじゃないかとのことでした。なら最後のヘロデというのはヘロデ大王かその孫のアグリッパのことなのでしょうか。

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