〈1冊でわかる〉シリーズとA Very Short Introduction

ふと調べ物をして思い出したのですが、岩波書店から「〈1冊でわかる〉シリーズ」と銘打った本が出版されています。これは、オックスフォードから出ている、さまざまな分野について専門家が比較的簡潔な解説をしているシリーズ本の翻訳なのですが、シリーズ名の原題は、「1冊でわかる」などではなく、A Very Short Introductionです。オックスフォードの意を汲むと、「ほんの手短な導入」であって、なにもこのシリーズの本を読んで、その分野がわかった気になるようになるなどというような意図は感じられません。ですから、「1冊でわかる」というのは原題とは対極にあるような最悪の訳だと思います。岩波書店ともあろうものが、一体何を考えているんでしょうか。安易なマニュアル本のように装えば売れるとでも考えているからこんな訳にしたのでしょうか。私たち読者の方にも、物事を深く調べて考えることを怠り、手っ取り早いものに飛びつく傾向があるから、そんな舐めた題をつけられたのかもしれません。

なお、「〈1冊でわかる〉シリーズ」の本は、日本語未翻訳のものも含めて私も数冊持っています。私の持っているものを読んだ限りでは、確かにわかりやすく書かれていますが、決して中立的な、当り障りのないような説明とは言いがたく、著者の主張、立場が前面に出されているのが特徴だと感じています。〈1冊でわかる〉シリーズの本の著者の立場は、本の中で扱われているトピックについてのあくまで一つの見解にすぎないわけです。A Very Short Introductionですと、私にできる簡単な導入は済んだから、あとは各々が自分で考えてくれという著者のニュアンスが伝わるのに対し、そういった面でも、なおさら〈1冊でわかる〉などというのは不適切な訳だと思います。

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