篠原修司氏への批判と対話(遊戯王の作者の発言を巡って)

しょうもない記事がほとんどなのについつい見てしまうヤフーニュースを開いたら、「『遊戯王』作者の高橋和希先生、キャラクターに政治ヘイト発言をさせて炎上。謝罪へ」という見出しがあってクリックしてしまいました。

読んで見た限りでは、遊戯王の作者の高橋和希氏がインスタグラムで、作品中のキャラクターのイラストの吹き出しに、「売国政権」、「独裁政権」と書いたことが問題視されたようです。

「『遊戯王』作者の高橋和希先生、キャラクターに政権へ攻撃的な発言をさせて炎上。謝罪へ」

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20190716-00134464/

しかし、それよりも問題だと思ったのは、この記事を書いている、篠原修司という人の「政治ヘイト」という見出しです。私は不勉強だからか、そのような言葉は聞いたことがありません。ヘイトというのは訳すと憎悪となりますが、「売国政権」、「独裁政権」が別段「憎悪」をかきたてているとは思えません。

憎悪表現と訳されるヘイトスピーチという意味かもしれませんが、やはり、民族や人種、宗教等のなんらかの本質的な属性を帯びた特定の個人やグループではなく時の政治権力への「売国政権」、「独裁政権」という表現が、たとえば日本での極右団体の在日韓国人に対するような発言とは同列でしょうか。ある程度コンセンサスを得ている「ヘイトスピーチ」という言葉の使い方と、今回の高橋氏の「売国政権」、「独裁政権」という発言は、ズレがあると感じざるを得ません。(そういえば産経新聞だったかが、今ではほとんど忘れ去られたであろう学生政治団体のSEALDsらのデモンストレーションに対し、首相への「ヘイトスピーチ」だと指弾したことがあったように記憶していますが、それと同様のものを感じます)

そこで、Twitterを見てみたら篠原氏がアカウントを持っていて、今回の記事についての投稿があることもわかりましたので、直接尋ねてみることにしました。

結局丁寧に返事を頂いたのですが、その前に気づいたのは、記事では「政治的ヘイト」と堂々と書かれていたのに、その前のツイートでは以下のように書かれていたことです。

遊戯王の作者の高橋和希先生が遊戯に現政権批判させて炎上。めちゃくちゃ金持ってそうで、どんな政権きても不自由しなさそうなのに不思議

(2019年7月16日4時25分のツイート。)

意図してかは知りませんが、いつの間にか、「政権批判」が、ヤフーという国内最大級のサイトに公開される際には、「政治ヘイト」というだいぶニュアンスが違う語にすり替わっているのです。篠原氏の中では、政権を批判することが政治ヘイトと同じ意味なんでしょうか。まさかそんなことはないでしょう。(私見では篠原氏の隠れた本音はそこにあるように見えました。お金を持っているから政権批判をするのが不思議というのもひどい偏見ですし、篠原氏の価値観が見え隠れしています)

その後の篠原氏とのやりとりは、面倒くさくなったのでツイートを転載します。(気が向いたら後で整えるかもしれませんが)

「政治ヘイト」という表現への批判は、案の定私だけでなく、他の人からも複数なされていて、結局批判を受けてヤフーの記事の「政治ヘイト」という言葉を撤回し、「政権へ攻撃的な発言」に訂正しました。まだ意味は通ると思いますが、本文を読み直してみると後述しますがまだまだ批判すべき点はあります。

また、Twitterでのやり取りでは、「政治ヘイト」という表現が不明瞭なことに対する指摘にとどめましたが、篠原氏の「政治ヘイト発言はそのまま政治的な憎悪発言の意味で使ってます。個人的にあれは政治的表現というより、ネットで攻撃的な方がよく使われる言葉ですね。政治悪口だとちょっとしっくりこなかったんですよね」とありますが、政治的表現と篠原氏のいう憎悪発言は両立するものですし、そもそも「政治的な」と書いている時点で、「政治的表現というより」という表現は意味をなさないと思いますが、ツイッター上のことですからそこはこれ以上追及しません。

もっとも、一方、高橋氏に問題がなかったのかと言われるとそういうわけではないと思います。おそらく高橋氏もなんらかの問題意識があっての発言だったと思いますし、文脈はわからないのですが、「売国政権」、「独裁政権」というのはあまりにも言葉が強すぎますし定義もあいまいで(「売国」とは一体どこにどのように国を売っているのか。誰か他の人も書いていましたが、極右的な人は逆に民主党政権を「売国政権」だと言うでしょう。たとえば共産党のポスターにあった「アメリカ、いいなり、もうやめよう」のほうがまだ具体的)、高橋氏と価値観を共有している人でないと、何をもってそうみなすのかわからず、なんのことだか伝わらないでしょう。しかも、それを遊戯王という幅広い人たちに人気のあるであろうメディアミックスのキャラクターのセリフとして発言させると、余計に混乱が生じても不思議ではありません。そういった点では高橋氏にも不用意な点はあったと思います。そういえば遊戯王って登場人物の唐突なセリフがルールとして既成事実化するような展開が多かった気がしますがそれは本件とは関係ないでしょう。(でもそういう思考の癖はあるのかもしれません)

個人的にはどこぞの芸人やバンドマンなどのように、無邪気に首相と会食したり表彰されたりして嬉々としている人たちよりは、表現者の精神としてまだ健全ではないかと思いますし(もちろん非ぃ科学的なオカルトや陰謀論に傾倒しだしたりしなければの話ですが)、私自身遊戯王が好きなのですが。(カードもですが個人的には初期の闇のゲーム路線が)

それはともあれ、そういう批判は別にあってしかるべきだと思いますが、篠原氏は篠原氏で「政治的ヘイト」というよくわからないが強い言葉を全面に出して、ヤフーという国内最大級のサイトに公開したという点では、高橋氏が孕んでいる問題と同等のもので、批判としては不適切でしょう。

おそらく、ですが、他の発言をざっと見た限りでは、篠原氏はどちらかというと(少なくとも私よりは)安倍晋三氏らに好意的か、野党勢力に批判的な人で、その立ち位置から生じるバイアスに無自覚なのでしょう。逆の立場の人は、高橋氏の発言が何の問題もない正論のように映るかもしれませんが、それはそれで盲目的でしょう。

篠原氏は今回初めて見た名前ですが、ITジャーナリストだそうで、「スマホやゲーム、ネットのことが専門。ネット上のデマの検証も行っています。」そうですが、今回のことから、デマの検証などをするには自分のバイアスに無自覚すぎ、また主観による表現が強すぎて、ジャーナリストとして公正な視点から文章を書くには向いていないのではないかと疑われました。

たとえば他にも、ヤフーの記事内では、高橋氏に対し、「同投稿には「何処の政党がどうとかキャラクターに主張させるのは違うと思います」、「こんなコメント付きのイラストは見たくなかった」、「キャラに言わせるような発信は何か違うよなあと思いました」とキャラクターに政治的発言をさせることにがっかりしたとのコメントが多数寄せられています。」とありますが、高橋氏のインスタグラムを見てみたら、反対に高橋氏を称賛する声も複数あり、篠原氏の書き方では、高橋氏が一方的に非難ばかりされて炎上したかのような印象を与えかねず、不公平ではないかと思いました。

ただ、篠原氏は立場問わず政治的主張をする人にありがちな、言いっぱなしにして自分の意見を絶対曲げないという人ではなく、自分も高橋氏と同じようなことをする羽目になったのは皮肉なものですが、指摘を受ければ喧嘩腰になることなく対応して、まずいと思ったら謝罪の上で訂正(ちゃんと訂正日時も書いて)しただけ人間的な誠実さはあると思いました。(ヤフーの記事の仕組みはよくわかりませんが、投稿後も簡単に修正できるのですね)

今回私自身も気をつけたいと思ったことは、文章問わず何かを表現して自分の意見を伝える際には、相手が自分が当たり前だと思っている価値観を共有しているとは限らないので、よほどの内輪でない限りは、定義が曖昧にもかかわらず断定的な表現は避けて、丁寧に説明するようにすべきだということです。

そして、やっぱりヤフーニュースの記事は、特に個人によるものは程度が怪しいものが多く、読む側は批判的に吟味しなければならないと思わされました。(今回のものはトップページにリストアップされていましたがどういう基準なのか、どういうお金の流れがあるのかなどは謎です)

ところで、ここ数ヶ月くらいだと思いますが、政権中枢にいる安倍晋三氏らが民主党政権時代をやたら「悪夢」と決めつけるのも「売国政権」、「独裁政権」と同等の表現ですし、高橋氏の発言が「ヘイト」などと問題視されるなら、時の権力者がなんの臆面もなく、国会という場でそのような発言をすることの危うさは高橋氏の比ではないでしょう。

今回の件は高橋氏の意図とは別のところで、彼の批判する対象が、いかに批判に値するかを明らかにしたと思うのですがいかがでございましょうか。(おあとがよろしいようで?)

(本文内の引用元はすべて2019年7月17日閲覧。)

余談ながら、今回取り上げたような篠原氏の概念のすり替えや、安倍氏の「民主党悪夢」発言のいかがわしさについては、私は修辞学者の香西秀信氏が書いた、『レトリックと詭弁』という本で学びました。分析に時間がかかってもいい文章ならともかくも、即興性が求められる面と向かっての会話で実践するのはなかなか困難ですが、もっともらしい発言に惑わされないためにも一読の価値はあると思います。

レトリックと詭弁 禁断の議論術講座 (ちくま文庫 こ 37-1)

本を読めば明らかですが、香西氏は小林秀雄や福田恆存など、保守的な知識人にシンパシーを抱いていて、逆にいわゆる「リベラル」に批判的な人で、残念なことにまだ在職中だったにもかかわらず2013年に亡くなっているのですが、まだ生きていたら、低劣な詭弁がはびこる現在の政治的な状況についてどのように思うか気になるところです。

(追記)Twitterを見たら、篠原氏への批判の典型的な悪い例として以下のようなものが出てきました。さらに自分に都合の良いような「ヘイト」概念を勝手に作り上げて反論した気になっています。そもそも言動からして野蛮です。こういう輩は手遅れ。







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