「ポタリング」不要論
私は長期間の旅行に適したママチャリではない自転車に一応は乗っている人間ですが、ポタリングという言葉が好きではありません。いつからそのような言葉が生まれ、使われるようになったのかは知りませんが※、(高価な)ロードバイクに乗っている連中が、サイクリングという言葉に対して特権意識を持たせようとしているように感じるからです。ましてこちらは一生懸命走っているのにゆるポタなどと言われるとどうも馬鹿にされてるような気がしてなりません。
しかもポタリングなる言葉が流布しているところで何をもってポタリングでサイクリングなのかの定義ははっきりと存在するわけではありません。結局は乗る人の主観に依拠しており、かえって自転車乗りの間のコミュニケーションを混乱させるだけで有害だとさえ考えています。「ポタリング」で検索して出てくる、したり顔で解説しているサイトを見てもその定義は曖昧ですし、どういう根拠で述べているのかも不明です。共通しているのは散歩のように気楽にぶらつくということくらいですが、散歩のようといってもやはり個々人の能力や考え方によってバラバラでしょう。おそらく実際にいるでしょうが、人によっては50kmの距離でもそう捉えている人がいてもおかしくないからです。もっとも、そういう専門家気取りのサイトにそこまでの厳密さや誠実さを期待するほうがどうかしているのかもしれませんが。
いかに一例を並べてみましょう。
同様に現代日本の自転車乗りが自他を『サイクリスト』と称するとき、これらのジャンルを念頭に置きません。
はやりの自転車キャンプ=バイクパッキング、超長距離のブルベ、日帰り温泉チャリツアーなんかはぜんぜんサイクリングです。
とくチャリで気軽にゆるゆとぶらつくことを『ポタリング』と称します。略称は『ポタ』です。
「ポタリング」、単に「ポタ」とも言いますが、一般的には、ゆっくり気楽なサイクリングのことを指します。
明確な基準はありませんが、がんばらない程度の速度で自転車で散歩するような感覚のサイクリングになります。
ペースはもちろん、参加する人の経験や走行頻度、自転車の種類で異なります。
平均すると、走行速度は25~30km/h未満、初心者であれば20〜25km/h未満が目安になるでしょう。距離は目的によりけりですが、だいたい15km~100km未満ほどで、あくまで「自転車で散歩」するイメージを想定しています。
日本において「サイクリング」とは、おもにレクリエーションやスポーツとして自転車に乗り陸上を移動することをいいます。
英語ではCyclingで、広義では自転車競技も含み、自転車の利用全般を指す言葉でもあります。
サイクリング
一方「ポタリング」は、「ぶらつく、のんびりする、ほっつき歩く」といった意味の英語potterが語源の和製英語で、自転車を用いた散歩や散策、散歩的な「サイクリング」のことをいいます。
そう、素直にサイクリングと言えばよろしいのです。たとえ時速20km以下で10kmでも20kmの距離でも、自転車で走ること自体が主体なのであればサイクリングはサイクリングで一体何がいけないんでしょうか。しかもポタリングは和製英語だそうで、日本独特の馬鹿げた概念だと思います。
ところで、ポタリングという言葉がいつ使われ始めたのかですが、私の記憶では10年前くらいはまだそれほど使われていなかったように思います。(後日自転車乗りの友人にも聞いてみます※)どういう連中が、どういう意図で使い始めてどのように広まったのかを考えると興味深いですが、上に上げたようなサイトくらいしか情報がないので突き止めるのは難しいでしょう。※少なくとも、現状はどうもロードバイクで競技志向の連中がそれ以外の人や自転車に乗ることを見下すために使っているように感じていますが考えすぎでしょうか。
(引用したサイトはすべて2019年12月27日閲覧)
(追記)※調べたところ、あるサイトによると、「ポタリング」という言葉は意外にも1957年、すなわち60年以上前にすでに存在していたことがわかりました。
ポタリングの歴史は思いのほか長く、1957年の4月にサンスター自転車(現サンスター技研)によって発行されたたのしいサイクリングという小冊子の中で、既にポタリングという言葉を確認することができます。たのしいサイクリングでは、ポタリングをクラブラン、ツアーとともにサイクリングの種類として紹介しています。近年の自転車ブームの中で生み出された造語であるかのように思われがちなポタリングですが、半世紀以上の歴史があることになります。
ここではあくまでポタリングは「サイクリングの」種類の一つとして、「クラブラン」や「ツアー」と並んで分類されていますが、現在では人によってはサイクリングとなにか別物のものだと認識しているのではないかという疑問はわいてきます。事実、上で引用した3つのサイトのうち、下の2つはあくまでも「サイクリング」のあり方として「ポタリング」を説明していますが、自転車関連のキーワードを検索したらやたら出てくるB4Cというサイトのページでは、「自転車業界の『サイクリング』はこんなにゆるくありません。朝から晩まで、休みなし、平均時速20kmみたいなハードワークはふつうです。とくに実走時間のながさがネックです。サイクリングの目的は名前のまんまに自転車です。これが8で、ほかが2です。メインはチャリだ。自転車の比率は6以下にはなりません。」、「しかし、チャリダー同士のあいだではサイクリングとポタリングは完全に別物です。スポーツとレジャーくらいの差があります。」などと書いています。このことから、やはりポタリングとサイクリングを区別(差別)する人が存在することは確かなようです。
それにしてもこのB4Cというサイト、読めば読むほど内容の出鱈目ぶりが目に付きますね。たとえば「ゆるポタの消費化カロリー[ママ]は徒歩や走りの5分の1です。」とありますが、それぞれ全然スピードが違うはずの徒歩と走りを一緒くたにしている時点で説明が破綻しています。相当なアクセス数と広告収入があるようで、その努力や根性は見上げたものですが、見る人はこのようなインチキな情報に惑わされないように気をつけてほしいものです。特に若い人で、結構こういうネット上の不確かな情報に感化される自転車乗りっているように感じますが気の所為でしょうか。
ポタリングという言葉が少なくとも1957年に使われていたと書いていたサイトにしても、「呼吸を乱さない程度の速度で自転車を走らせる有酸素運動主体のサイクリングです。ポタリングはフィットネスを目的としていますので、走行速度や走行距離といった運動強度よりも、走行時間、すなわち、運動時間を意識して自転車を走らせます。」などとあります。しかし、確かに短距離を猛スピードで走るなら無酸素運動の度合いが高くはなると思いますが、時速何キロで走ろうがレースに出ようがそれが有酸素運動であることに違いありません。また、フィットネスが目的というのも疑問です。そもそもフィットネスという感覚すら持っていない人だっているであろうからです。自分で書いていて少しでもおかしいと思わなかったんでしょうか。
(2020年1月3日追記)大学時代に自転車系の団体に入っていた友人に聞いたところ、10年ほど前の時点でポタリングやゆるポタという言葉は普通に使っていたそうです。単に私の周りに日頃サイクリングをする人がいなかったので聞かなかっただけでしょう。その点は勘違いでした。