不幸を望む活動家たち

社会問題に取り組む活動家を見ていると、彼らの取り組んでいる問題が解決するよりも存在し続ける、すなわち、社会問題で苦しむ人間が現れる続けることを望んでいるのではないかと思わされることがある。

活動家ではないものの一例をあげると、何年も前の話で現在は自説を撤回しているかもしれないのでそこは差し引いて読んでいただきたいが、以前ある人が、福島では震災による原子力発電所の事故の放射能漏れによって子どもの甲状腺癌が増加していると言っていた。それを聞いて私は、確かに増えているのですかと尋ねたと思うが、彼は真顔で断言していた。

しかし、本当に原発事故によってがん患者が増えたと何を根拠に断言できるのだろうか。因果関係をどうやって証明したのだろうか。小児を対象とした癌の検査を増やしたから、それまで見逃されていたものまで発見されて数が大きくなっただけではないかという疑いはすでに指摘されていることである。調べた限りでは陰謀論のような煽情的なもの以外で、両者の因果関係を断定したり、蓋然性が高いと主張しているような情報は見当たらなかった。

その話を別の知人にしたら、国が認めたがらないからと言っていた。しかし、よく考えれば実際には国どころか自治体もそのような事実を認めている話は寡聞にして聞いたことがない。おそらく専門家の間ではほとんど支持されていないと思われる。

それにもかかわらず、特に最初の人は一体何を根拠に断言しているのだろうか。ちなみにその人は科学者ではないものの学者であり、よりによって、自分の専門分野を研究するには色眼鏡を外さなければいけないと、わざわざご自分の眼鏡を外して教えてくれた後だったと思う。確かに彼は自分の専門分野については色眼鏡はかけていないのかもしれないが、それ以外のものを視るときには別の色眼鏡をかけているのではないかと疑われた。

いずれにせよ、彼は政府(知人も「国が」と言ったところにその人の信念が無意識に反映されているようで興味深い)が信用ならないし、もともと原子力発電所に否定的な信念を持っているから、無意識のうちに自分に都合の良い情報ばかりを選択しているのではないか。確かに私も現在の政府の言うことなど信用ならないし、特に復古主義的な政治家には彼らと同等かそれ以上に批判的だと自負しているが、出来事同士の因果関係を述べるにあたっては、あくまでどういう手法によってどういう結果が導き出されたのか調べたり、本当に妥当な推論なのかをよく考えるべきだろう。それでも頑なに自分の先入観を強引に押し通すのならばそれは単なる陰謀論者である。陰謀論に陥る人が蔓延れば何も極右政党が席巻するまでもなく社会は破滅する。

ところで、放射能の影響で甲状腺がんに罹患した子どもたちが増加していないという事実が正しいほうが良いに決まっている。もしそうだと聞けば胸をなでおろすはずである。ところが、彼は逆に増加している事実を望んでいるのである。それによってどんな害悪がもたらされるかは見ずに。「実は『不都合な』真実」が覆い隠されていることを望んでいるのであるが、実際のところはそれは彼にとっては好都合なのかもしれない。そのほうが、それまで培ってきた自分の信念が肯定されてアイデンティティが崩れずに済むからである。あるいは、社会問題に深刻に取り組んでいる自分に酔えるナルシシズムとも言えようか。彼のような人は、人の不幸は蜜の味と楽しんでいると思われても仕方があるまい。

同じことはたとえば「反差別」を掲げる活動家にも当てはまるだろう。差別がない社会(実際は人間が生きている限りなくならないだろうが)のほうが良い社会に決まっているが、彼らは彼らの活動が功を奏したのかどうかは知らないが、あるものへの差別が悪であると社会一般に浸透しても、重箱の隅をつつくような些細な発言や、そのような人や同類が「不快」に感じた出来事を取り上げて、時によっては独自の用語まで造語して騒ぎ立てる。そうまでしないと、彼らのアイデンティティ、さらには存在理由までもなくなってしまうという、自己愛に基づいた妄想に囚われているからである。

(追記)思い起こしてみると、最初の学者は本当に「放射能によって」、甲状腺がんが増えていると言っていたのか記憶が曖昧なことに気がついた。もしかしたら単に「福島では」と言っていた可能性も否定できない。それなら因果関係を断定しているわけではないので非難するには当たらないし、藁人形論法になってしまう。あくまで彼が「もしそう言っていたとしたら」の話として、また彼がそうでなくてもそういう断定的な主張をしている人は(もちろん因果関係が全く無いとも断定できないと思うが)確かに存在するので、特定の個人に限った話ではなくそういう人たちに向けた批判だと思って読んでいただきたい。

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